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「羊と鋼の森」
2017年11月9日

表紙がキュートで若い人向けの本かしらんと
手にとった宮下奈都さんの「羊と鋼の森」。
羊と鋼、柔らかいものとかったいもの?



音の表現の仕方が独特なのです。


天才調律師さんとの出会いのシーンで

音の連れてくる景色がはっきり浮かぶ。
一連の作業を終えた今、その景色は、
最初にひいたときに見えた景色より格段に鮮やかになった。


主人公は、ピアノの調律に魅せられます。 


そして、ふたごの姉妹、和音と由仁との出会いで

「玉のようで」
「光のようで森のようで(略)」
音と音が転がって、絡みあって、
きらきらした模様をつくる、和音のピアノ。

ピアノを弾く人の個性を独特の
感性で受け止め表現します。


瑞々しく、爽やかな世界に引き込まれました。

枝先のぽやぽやが、その後一斉に芽吹く若葉が、
美しいものであると同時に、
あたりまえのようにそこにあることに、あらためて驚く。
あたりまえであって、奇跡でもある。
きっと僕がきづいていないだけで、
ありとあらゆるところに美しさは潜んでいる。
あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。



牧場のある土地に育った主人公は

家畜を貨幣価値に照らして見ている 

羊は何かと漢字に使われていて
「羨」という文字は皿にのった
羊だと覚えたことありましたっけ。


主人公は、才能とは何なのか努力とは
と、深く考えます。

今の段階で必要なのは才能じゃない。(略)
才能という言葉で紛らわせてはいけない。(略)
経験や、訓練や、努力や、知恵、機転、根気、そして情熱。
才能が足りないなら、そういうもので置き換えよう。

これは、調律師に限らずすべての
仕事や趣味にも言えることだと思います。


先輩の柳さんが言います。

「才能っていうのはさ、ものすごく
好きだっていう気持ちなんじゃないか。
どんなことがあってもそこから離れられない
執念とか闘志とか、そういうものと似ている何か。
俺はそう思うことにしているよ。」



毒舌家というか皮肉な物言いをする先輩の秋山さんは

「怖けりゃ必死になるだろ。
全力で腕を磨くだろ。
もう少しその怖さを味わえよ。
怖くて当たり前なんだよ。」


自分の資質を疑いながらも、
運命的な出会いに恵まれ
コツコツとあきらめないで努力する
主人公の姿に感動しました。


もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。
時間がかかっても、まわり道になっても、
この道を行けばいい。
何もないと思っていた森で、
なんでもないと思っていた風景の中に、
すべてがあったのだと思う。
隠されていたのでさえなく、
ただ見つけられなかっただけだ。

 

最後、結婚式の会場で調律をする
主人公の成長が眩しく
また、空間を創り上げてゆく感じが
私達が祝言に思いをこめて
創作してゆく過程に似ていると感じ
涙が止まらなくなりました。


夢に向かって努力しながらも
迷う経験は誰にもあると思います。
特に若い頃は。
主人公を取り囲む人がみな優しくて
心穏やかに読めました。
お話の中では北海道ならではの自然の描写も好きでした。

投稿者 rin5chan : 2017年11月9日 カテゴリー: 気まま図書館 | コメントはまだありません »

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